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最近は演出備忘録。
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ダグラス・サークの特集上映を観た帰りに、偶然S監督と久しぶりにお会いしてロッテリアで小一時間ほどお茶をしたのは去年のいつごろだったか。少なくとも それは映画「童貞放浪記」の撮影前で、おぬまはヒロインとしてキャスティングされた神楽坂恵のマネージャーから早くワークショップをやってくれとあたかも それが決定事項のように手帳に書き込まれていたのを思い出す。「ちょっと待ってください」とおぬまがマネージャーのMさんを制止したのは、その分のギャラ が本当は欲しいけれど絶対にくれないだろうな、という一瞬の逡巡があったからに過ぎないので、その直後には「そうですね。そろそろ良い時期かもしれません ね」とギャラの話には少しも触れずに済ませることができた。しかし、ギャラの件はともかくとして撮影まであと2ヶ月半という期間、グラビアアイドルから女 優に転向宣言した神楽坂恵をどのように扱って良いのかわからず、おぬまは途方に暮れていた、、そういう時期だったと記憶している。
S監督とは一昨年公開された「学校の階段」という映画でお仕事をご一緒させていただいたのだが、その作品には神楽坂も出演していたため、自然と 話題は彼女に向けられた。おぬまが準備中の作品で神楽坂がヒロイン役だと説明すると、S監督はそれがいかに困難で挑戦しがいのあるプロジェクトであるかを 瞬時に理解した。S監督に対して演出面のアドバイスを率直に求めたところ、S監督は熱心に応えてくれた。「例えば自分の作品で首が切られてスポーンと飛び 出す演出を加えてみたら、スタッフはそれを面白がってあれこれアイデアを出すようになり現場のモチベーションがとても上がったものだ」そう言ってS監督は アイスコーヒーをがぶ飲みした。おぬまもアイスコーヒーを少し飲んだ。もはやそれは神楽坂の演技力についてはあきらめろというお達しにも聞こえそうなもの だったが、おぬまはむしろ「粘り強く対処すれば必ず道は開ける」という前向きな助言と受け止めることができた。ギャラはともかく、神楽坂と対等な立場でと ことん戦うべきだと考えたのだ。
その後2ヶ月半、神楽坂恵のリハーサル地獄は始まったわけである。(つづく)

※概ねフィクションですよ!
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