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最近は演出備忘録。
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神楽坂恵とプロデューサーI氏に台本を見ずに台詞を読んでもらう。台本で2ページほどの長さだが、一週間も前に二人に渡しておいたので台詞を覚えるのはそ れほど難しいことではない。とはいえ、半分ぐらい台詞が入っていればよいだろうとおぬまは割合優しく構えていた。途中で台詞がわからなくなったら台本を見 てもいいよ、と。しかし、神楽坂はほとんどすべての台詞を、台本を見ずに言うことができなかった。一方、I氏はきちんと台詞が頭に入っていて、1度も台本 を見ていない。これではどちらが俳優なのかわからない。初めは緊張しているのかと思ったが、何度やっても同じだった。
上手下手はともかく一生懸命やるその姿が大事なのだ、俳優自身の人生が観客に伝わるのだ、ということを小津が言っていたような気がする。彼女を 見にきた観客にいったい何が伝わるのかと思うと、おぬまは貧血と高血圧が同時に起こったような気分になった。とにかく。立ち上がろう。そう考えたとき、す でにおぬまは立っていた。
「今日は止めます」
おぬまは、矢も楯もたまらず、まるで逃げ出すように部屋をあとにした。部屋を出るときに、マネージャーMさんの狼狽した表情と強調した胸元が見えた。
交通量の激しい大通りをおぬまがユラユラと歩く。夏にはまだ間があったが、天気が良くて汗ばむような陽気だったと記憶している。家に帰るべきか、 あるいはどこか別の場所に行くべきか、でも行くってどこへ? というか今どこに向かっているんだろう、そんなことをボーッと考えながら彷徨した。横断歩道 で信号待ちをしながら神楽坂のことを思った。岡山から上京し、デパートで化粧品を売っていたところをスカウトされたと聞いていた。胸の大きさがスカウトの 目にとまったのだろう。デビューが遅かったので、グラビアアイドルにしてはスレてない性格が美点だと最近わかってきた。グラビアアイドル時代、一歳だけサ バを読んでいたと言っていた。女優になるのでもうサバは読まないとも。
またリハーサルをやることになったら、神楽坂は台詞を覚えてきてくれるだろうか。もし彼女が台詞をすべて暗記してきたら、明るい未来が待っているような気がした。
信号が青になったので、おぬまは少し速度を上げて歩き始めた。携帯電話を取り出すと、歩きながらI氏に電話をかける。次回のリハーサルの日時を決め、電話を切った。おぬまはさらに歩速を上げる。『監督をクビにならなくて良かった』と思った。(つづく)

※概ねフィクションですよ!
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