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最近は演出備忘録。
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マネージャーのMさんが手帳に記した時刻きっかりに、おぬまが某マンションの一室(のちのスタッフルーム)に行ってみると、すでに神楽坂恵は動きやすい服装で準備万端、しっかりリハーサルに備えているように見えた。おぬまは特にワークショップなどの経験はなく、メソッドとかなんとかそういう演技理論の類と も縁がなかったので、とにかく映画のリハーサルを2ヶ月半やるつもりで乗り込んでいった。神楽坂の隣にいるマネージャーのMさんの顔を見るとギャラの件が 頭を過ぎったが、それも一瞬だけだった。むしろ気になったのは神楽坂より遙かに胸元を強調しているMさんの服装だったかもしれない。なぜ強調しているのか その理由はよくわからないが、気が散るので丁重にご退席していただいた。
神楽坂一人ではリハーサルにならないので、相手役としてプロデューサーのI氏にお願いした。また、当時、映画「童貞放浪記」の脚本はまだ初稿す らあがっていなかったためリハーサル用の台本を用意する必要があったのだが、おぬまが選んだのは「キャッチボール屋」という映画のワンシーンだった。 「キャッチボール屋」にはおぬまもほんの少し出演していて、そういう縁もあって手元に台本が残っていたのだ。その中からほぼ会話のみで成り立っているシー ンを抜き出して、すでに一週間前に神楽坂に渡してあった。
映画において演技を構築していく上でいくつかの段階があると思われるが、まず“本読み”から始めるのが一般的である。すなわち、俳優が座ったま ま台本を手にして台詞を読む。演技を耳で聞くところから始めるわけである。小津安二郎と野田高梧は、脚本を書き上げたら最後に声に出して読んでみて、会話 が自然に聞こえるかどうか必ず確認していたという。台詞を耳で聞くことは映画作りにおいて最も基本的な作業と言えるだろう。
というわけで、カーペット敷きの床に、おぬまと神楽坂とI氏が無造作に車座を組んで本読みが始まった。(つづく)

※概ねフィクションですよ!
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