最近は演出備忘録。
神楽坂恵が人を殺す場面で感情の振幅を振り切ることができなかった。
喫茶店に向かいながら、あるいは緊張しないようにと考えたためなのか、おぬまは昨日のリハーサルのことばかり考えていた。
本人とは全く性質の異なる役柄なので、おぬまは試みに特殊な演じ方を彼女に要求した。それは、すべての台詞の合間に「あ」と曖昧に声に出してもら うことで、殺人鬼の不穏な思考回路に接続できないかと試みたように記憶している。その方法は台本の終盤付近まではまずまず効果を発揮していたが、肝心の拳 銃を突きつける場面で、神楽坂は感情を突きつけるまでには至らなかった。感情を抑制する術に長けているはずの悪。そのコントロールが破綻したときに起こる カオス、崩壊、惨劇にはならなかった。そのシーンは単に“殺人者が相手を殺す”のではなく“殺人者を知る男が殺人者に自分を殺させる”という作品全体のク ライマックス部分だった。自分の運命を呪う間もなく手を下してしまう、ドラマが偶然の断罪を受ける瞬間である。おぬまはやや感情的に神楽坂の腕を掴んで、 リハーサルの相手役を担当していたプロデューサーT氏の胸に乱暴に押しつけた。その拳銃を突きつける感触をおぬまは今喫茶店の椅子に座りながら思い出した のだが、突きつけ“る”感触と、突きつけ“られる”感触に違いはないのではないかと考えた。夢の中では人を殺す感触と人に殺される感触に違いがないことに 似ているように。やる、と、やられる、を行き来できる方法が、もしかしたらあるのかも……。
そんな論理のねじ曲げを自分の感覚に重ね合わせることで何かの言い訳にしようとしていたのは、今まさにK先生が「どうも」と言いながら目の前に座ったからに他ならない。(つづく)

※概ねフィクションですよ!
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