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最近は演出備忘録。
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記憶と妄想が錯綜して時間軸が揺らいでしまったので、話をリハーサルに戻す。
夏の日差しが強さを増してリハーサルの前に必ずエアコンのスイッチを入れるようになった頃、神楽坂恵の頭にはすでに「童貞放浪記」の脚本に書かれた北島萌の全ての台詞が入っていた。リハーサルを始めるときも台本コピーを手にすることはなく、ぼんやりと目を泳がせながら台詞の内容とその言い回しを自分なりに反復している様子が見て取れる。オー、なんだか女優っぽいゾ、とおぬまは頻りに感心する。
おぬまが俳優に何らかの指示をするとき、メインキャストにはなるべく抽象的に、その他のキャストにはなるべく具体的に言うようにしている。出番の多い俳優は脚本全体から自分の役を大局的に理解しながら体全体で再現できるようにしなければならないので、具体的な指示は寧ろ障害になる。押しつけるの ではなく引き出すことが重要で、そのために監督は俳優をしっかり観察しなければならない。
いっぽう俳優は、役の構築を少しずつ深めつつしかしその役に閉じこもらないように注意を払いながら目前の相手役やそれを演じる俳優を意識したり 反応したりまたそこから自分の中にある役の解釈を引っ張り出したりするうちに自分と自分が演じる役と相手の俳優と相手の役と俳優達が演じている空間とその 空間を借りている現実の社会とそれを切り取ろうとしているカメラとマイクとそれらの視線そのものや世界の視線も含めたこの世界全体との区別がつかなくなる。だから俳優によっては現場と普段の生活の境界が曖昧になったりするのだ。とはいえ、そのようにできる俳優はそれほど多くないので、もしそういう役者の “入り方”を現場で目撃することができれば、映画に幸福が訪れる確率は高い。
主人公・金井淳には山本浩司だけが相応しいという点については、私やプロデューサー達の意見は完全に一致していた。ただ、当時まだ諸条件交渉中 で最終決定はしていなかったと記憶する。相手役が誰になるかを最も気にしていたのは神楽坂かもしれない。もし、天才・山本浩司が配役されることになれば、 この映画において最も懸念される課題は主役と準主役の演技的なバランスとなる。神楽坂にとってもおぬまにとっても残された時間はあまり多くないと言ってい い。(つづく)

※概ねフィクションですよ!
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