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最近は演出備忘録。
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新宿TSUTAYAの邦画コーナーで、おぬまは「F.ヘルス嬢日記」を探していた。棚には官能系の低予算作品が並んでいて、一般の人にとってそれらは “AVよりはソフトで気軽に借りれるエッチ物”かもしれないが、我々のような少しでも映画に係わる者にとっては“才能豊かな先人たちによって達成された偉 業の数々”である。おぬまは畏怖の念を押さえきれず思わず大量のビデオをカゴに入れたくなったが、一度に何本も借りると結局延滞してしまうことを思い出 し、しかもそういうときはたいてい返却するときに「なんでこんなビデオを借りるのに△△円も払わなきゃいけないんだ」と作品に逆恨みすることもしばしば だったので、近頃は予め自制して一本ずつ借りるようにしていた。ああでも「女の細道 濡れた海峡」だけは勝手に手が伸びてしまった。師匠の傑作なので許してくれと自分自身に希いながらレジに向かおうとすると、背の高いビデオ棚に挟まれた狭い通路の奥から丸い顔をしたHさんが大量のビデオを詰め入れたカゴを両手に抱えてフラフラと近づいてくるのが見えた。おぬまが反射的に足をそろえると、Hさんはすぐ脇に立ち止まり前を見たままじっとしていた。おぬまはしばらく黙っていたがHさんが何も言わないので先日友人に三枚チケットが売れたことを報告しようと思ったところ、Hさんは徐に口を開いた。
「今度結婚することになりました」
あまりの驚きにおぬまは微動だにできぬまま、フラフラとレジへ向かうHさんを見送っていた。
大型レンタルビデオ店の棚に無数に並ぶ映画のすべてに始まりと終わりがあり、そしてその途中の山のような部分を人はクライマックスと呼ぶ。それが何に似ているかと考えれば、やはり淀川長治にならって「人生に似ている」と言うしかないだろう。
「おめでとうございます」
我に返ったおぬまはそう呟いたあと、洋画コーナーに移動して「愛の世紀」を探し始めた。(つづく)

※概ねフィクションですよ!
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